2010年6月8日火曜日

授業案の例「水はどこから?」


<水はどこから?>

1.この単元についての考察

水道は、ゴミ処理や消防、防災などと同様に、総ての人が必要とすることでありながら個人の努力では実現できないため、共同で確保する必要のある事柄、すなわち公共の事業である。

子どもたちは、公共的事業について表面的には知っているとしても、それが自分たちの生活を支えているものであることには気づいていないことが多い。

指導要領では子どもたちの社会認識を培っていくうえで、自分たちが生活している地域の概観的な観察に続き、そこで働き生活している人々の様子に視野を広げ、地域社会に関心をもつことが構想されているようだ。公共的事業についての学習は、これらの先行する学習を前提として設けられているようだが、ここでは見聞きするなど五感を使うだけでは理解できない問題を扱う難しさがある。

<一人ひとりにとっての必要性の仲間同士での集団的な確認 → 共通の必要であることの発見 → この共通の必要に応えるための営みへの注目>という順序で、学習の過程を考えてみたい。

(1)水をめぐる今日的問題

a.人口急増と産業発展による水不足の深刻化:30国以上で絶対的不足。2025年には48ヶ国で水が不足。深刻な食料不足をもたらしている。水が原因で、年間5001,000万人が死亡。日本の輸入食料の生産に必要な水は年間数百億m³に相当。

b.過剰な地下水の汲み上げに伴う地下水位の低下、地盤沈下が世界各地で発生。地下水の影響は水循環全体に現れ、地下水の水質の悪化や河川流量の減少などによって生態系にまで及ぶ問題に発展。

c.世界では汚水処理施設の未整備による水汚染、12億人が安全な飲料水の確保できず、30億人が十分な衛生設備(下水道施設)なし。途上国における病気の80%の原因は汚水。水が原因の病気で、子ども達が8秒に1人ずつ死亡。

d.洪水被害の拡大:都市化による土地利用の急変、森林伐採により、流域保有能力は低下し洪水時流出量は増大。人口急増で氾濫区域に居住地が進出し洪水被害が増大。

(2)小単元の目標(ねらい)

第1:当たり前のように感じられている<無限にある安全な水>は、当たり前にあるものではなく、人々の様々な分野での努力によって初めて確保されていることを理解する。

イ) どの位の量の水を使っているかを改めて認識する。

ロ) <安全な水>がなくなった場合の問題を理解する。

ハ) 社会生活における飲料水以外の水の用途(農業、工業)を理解する。

ニ) 植林、河川管理、浄水と水道、下水処理など、<安全な水>を確保するために行われている公共的活動を理解する。

第2:輸入食糧などをとおして、水をめぐる世界的な問題に繋がっていることに気づく。

ここでは、先の学習につなげる発展的課題を呈示し、問題関心を高めることに留める。

(3)水問題と子どもたちとの関係

・ 多くの子どもたちは断水の経験がなく、また洪水にあった経験もない。安全な水があるのは、自然で当たり前のことのように感じている(と思われる)。中には、途上国で子どもたちが水汲みに毎日何キロも水を運んでいることや、洪水についてニュースなどで知っている子どもたちもいるが、その数は少ない(と思われる)。

・ ミネラルウォーターが水道水より高いことには気がついていても、安全な水道水が供給されるために(公共的な)事業が行われていることに気づいている子どもたちは必ずしも多くない(と思われる)。

・ 子どもたちが既に知っているか経験していること:料理、掃除、洗濯に水は不可欠であること。水の持ち運びは簡単ではないこと(液体でこぼれやすい、まとまった量の水は重たい等)。飲料水の殆どは雨水に由来していること。農業には水が不可欠なこと。使われた水は下水などを通って海に流れるだろうこと。飲める水と飲めない水、おいしい水と薬臭い水などがあること。

こうした既知のことや経験は狭いものであっても、そこには、人間が利用する水が自然界の循環のなかにあることや、社会生活の中の多くの場面で水が大きな役割を果たしていることを理解する手がかりが沢山あるように思われる。

(3)授業案の設計

イ)子どもたちの内発的な興味や関心を呼び起こすための工夫:

第1時限目 : 毎日どんな時に水を使っているか書き出してみる:

第2時限目 : どの位の量の水を使っているかを調べてみる:①1回の食事、1回の洗濯、1回のトイレなど。あるいは、水道料金から一人当たりの月間使用量を推測してみる。学校での使用量を「取材」する。②住んでいる地域や市町村の全体での使用量を、人口数をかけるなどして推測し、それを実際の記録とつき合わせてみる。

第3〜4時限目

次の三つのうちから一つの活動

a)断水で困った経験を親などから聞き取りをする。

b)アジア・アフリカ等で日常的に遠くまで水汲みに行っている子どもたちの映像や作文などに接する。そのうえで、実際に教室からもっとも遠い水道まで水汲みに行き、第2時限目で出てきた毎日の必要量を満たすために、どの位の水汲みが必要となるかを経験する。

c)先行する単元で地域の様子を調べる際に、以前にあった井戸について調べておいたうえで、それがどのように使われていたかを老人たち等から聞き取りをする。

第5時限目 : 「水道がなくなったら?」というこれまで考えたことがなかったであろうこと(未知のもの)を問題として投げかけ討論する。

「どういうことに困るか?」の点だけでなく、「どうやって対応するか?」についても、子どもたちなりに考え、意見交換させる。大人の目からは無理、見当違いと思われる意見や想像でも十分に受け止め、子どもの視点での「水道がなくなったら?」問題への対応を受け止める。

第6時限目 : 第5時限目で出された意見等への大人・教師の視点からの評価は留保し、「これまでの人々はどうやってきたかを調べてみよう」と提案し、(水問題について)「これまでの人々、大人たちがやってきた工夫」の内、子どもたちが知りたい、調べたいことを出し合わせる。その意見交換を踏まえながら共に調べる課題を絞り込んで行く:

予想される事柄:いつ水道は作られたか、どこから飲料水は運ばれるのか、使われた(汚い)水はどこへ行くのか、

第7時限目 : 水道局などへの取材、または質問の手紙つくり。

第8時限目 : 第7時限目の結果、知ることのできたことをまとめてみる。そのうえで子どもたちが更に知りたいこと、あるいは教師の視点から見て子どもたちが認識を深めることが必要だと思われることについて、新たに観察、調査を提案する。

ここでは一例として浄水場の見学に取り組む:「川から水道の水をとっている、でもそのまま飲んでいる訳ではない」、こうしたことは子どもたちでも容易に想像できるだろう。しかし、飲料水がどのように作られているかは知らないことが多いだろう。

第9時限目 : 浄水場の見学

* 浄水の仕組みを知ることが中心ではなく、浄水の仕事が人々に共通する必要を充たす事業として公共の施設で行われていることを理解することが要点。

第10時限目 : 見学のまとめ発表と発展的課題の呈示。

*  植林、河川管理、下水処理など、<安全な水>を確保するため、浄水場の他でも行われている公共的活動を理解する。

* 水道事業が公共的性格をもっているじぎょうであることの確認。同様の性質をもつものには、水利管理、消防、防災、保健衛生、道路、ガス、電気、通信などがあることの示唆。

第11時限目 : 社会生活における飲料水以外の水の用途(農業、工業)や、水をめぐる今日的問題(上記1−1)の大まかな紹介(ビデオなど)

第12時限目 : まとめ

3.工夫した点(省略)

4.参考文献

岡崎、鈴木『調べてみよう暮らしの水・社会の水』2003、岩波ジュニア新書

http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/j_international/international01.html

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